実践によって知恵は磨かれる

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ビジネスパーソンに必要な知識やスキルは、読書やセミナーなどをインプットして実践によって磨かれるのが基本だと思っていましたが、この本はそんな視点を高くしてくれました。
 現場のなかで実践し、そこから得られる気づきによってこそ知恵が得られ、イノベーションが起こる。
 今回は、野中郁次郎 著「ワイズカンパニー」の概要になります。

1.知識を実践することの重要性

①持続的なイノベーションを支えるから。
 新しい知識が身につく → 組織に浸透する → 個人が行動に移す → 行動によってまた新しい知識が身につくという好循環を生み出すため。

②外の世界へのつながりが増えるから。
 知識が拡大する → 知識の規模と質が増幅する → 知識の創造、実践に関わる人が増える → 個人から組織、コミュニティ、社会へ広がっていきます。

2.知識創造と知識実践のSECIモデル

①SECIモデルとは
 組織の知識創造・実践プロセスを概念化したものです。4つのプロセスからなります。
 1.共同化・・個人間の暗黙知の共有。互いに理解を深め合い、考えを共有します。
 2.表出化・・チームレベルで暗黙知を統合。言葉/イメージ/モデル等の形式知が生まれます。
 3.連結化・・組織レベルで形式知を体系化。
 4.内面化・・形式知を行動に移す段階。行動学習により個人の暗黙知が豊かになります。

②SECIスパイラルへのつながり
 SECIモデルが繰り返されることで組織の知識実践が促進され、拡大します。らせん状に上昇するイメージから、SECIスパイラルと筆者は述べています。SECIモデルの拡大が、組織のイノベーションにつながる行動増加になりコミュニティが大きくなり組織の存在意義が強くなります。
 また、知識だけではよい行動は起こせないため、実践知が必要になります。リーダーシップの実践において大切なことを、3章で紹介します。

3.リーダーシップの実践で大切なこと

①何が善いかを判断する
 「いま・ここ」で賢明な判断を下し、行動を起こすこと。2011年3月11日の震災直後に判断を下したリーダーの経験が紹介されていました。上からの指示を待たずに行動し顧客のことを第一に考え、何より自分のやるべきことを投げ出さなかったこと。リーダー自身がつらい環境下にもかかわらず正しく判断できたこと。
 平常時に善についての判断力は、逆境や失敗したときの経験を通じて育むことが方法の一つです。会社の経営理念も良い例であり、経営者が口酸っぱく発信する内容も何が善いとするかを浸透させようとしていると考えます。

②本質をつかむ
 リーダーは本質を素早くつかみ、出来事や人の真の性質を見抜く。
 本質をつかむためには、長年にわたって出来事を身体で感じて覚え込ませたりやると決めたことを細部まで徹底的にやる。効率は意識せず、粘り強くやり抜くことが大事です。
 ただ、本質を素早くつかむには、いつでもすべてを捨てて、急に方向転換できる柔軟性が必要です。過去の経験をもとに、「いま・ここ」で新しい仮説を立て素早く実行できること。

 本質をつかむスキルを高める方法は3つあります。
  1.問題を徹底的に問うこと・・・なぜを5回繰り返し、ものごとの本質をつかむ。
  2.木と森を見る・・・未来から今を見たり、高い目標を設定して視点を高くする。
  3.仮説を立て、試し、検証する・・・顧客の立場になって立て、手を使って検証する。

③場を創出する
 場に加わった人達で情報を共有して、「いま・ここ」の関係を築き、相互交流するなかで、新しい意味を一緒に創造する。
 参加者の間で活発な交流が生まれるためには、下記のように適切なタイミングや環境で場を築くことが重要です。
  1.垣根を作らない
  2.場を築くタイミングを(すみやかに)見計らう
  3.セレンディピティ(幸運な偶然の発見)を引き出す仕掛けをする
  4.本音で話す
  5.共通の目的意識を育む
  6.コミットメントの範を示す

④本質を伝える
 本質を伝えるために、背景を理解するための想像力を育む。
方法として、物語を読んで心に残るスピーチから伝え方のコツを学ぶこと。また、経歴の違う人に会って話をすること。

⑤政治力を行使する
 新しいよいものを生み出そうとするときには、人を行動に駆り立てることと、機転が利き、狡猾であること=政治力も必要です。そのためには、相手のものの見方や気持ちを理解して、行動を引き出せる能力が必要です。

 また、狡猾さを活用した事例として東北大震災で支援にあたる担当者の経験が語られていました。「企業の目的を達成するうえで一時的に規制を破っても被災者の健康を優先した」ように、その状況でどうするのが賢明かを考えて判断しています。

 その場の状況に最もふさわしい判断を下せるのは、矛盾や対立やパラドックスを活かせることも重要です。「あれか、これか」という発想ではなく、「あれも、これも」という発想をすることだと述べています。心に残ったフレーズを3点、記載します。

 ・ミドルマネージャーが経営層の理想的なビジョン(あるべき姿)と、
  現場の現実間の第一線での現実矛盾解消に努める。
 ・大きなギャップを理解するマネージャーが両者の架け橋になる。
 ・現場を知ることは、課題を知るということ。

⑥社員の実践知を育む
 社内のトップから現場まで実践知を使いこなせるように促進すること。全員が「すべきことを知っている」ようになることが、ゴールになります。経営者やミドルマネージャーが下記の方法で浸透させることが大事と述べています。

 ・経営トップが、ミドルマネージャーや現場の社員になりたいものになり、
  したいことをする幅広い自由を与えている。
  そのために、困難な状況で難しい判断を下すのに必要なスキルや専門知識を身に着けさせている。
 ・師弟制度で、リーダーが部下に「現場」「現物」「現実的」で教える。
 ・全員に経営者のマインドセットをもたせ、現場で決定を下し、実行に移せる環境を作る。 
 ・即興を活用する。 
 ・組織構造を、階層構造からネットワーク構造に変える。

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